小笠原泰

よく考えれば、ゴーン氏は日産の日本人経営陣にとって、本当は日産に対するフランス政府からの影響を排除してくれる存在でもあり、日産のグローバル企業への脱皮を促す存在であった。それを今回の逮捕により、フランス政府を前面に引き出してしまい、そのために日本政府を引き出すしかなくなった結果、日産はめでたくグローバル化できない日本企業になったということだろう。これが、西川社長のいう「日本企業としての自主独立」なのであろう。また一つ、グローバル化適応の失敗の例、つまりシーラカンス化の例が一つ増えるということだろうか。 今回の一件は、国際政治経済の観点で捉えれば、グローバル化によりパワーが減衰する国家がナショナリズムを利用して、パワーを増強しようとして、国からの離脱を試みる企業を叩くことによって、国民に主権回復を印象付けるという事例である。企業同様に国家が競争力を高める必要に迫られるなかで、これはむしろ目先の国家の生き残りの手段といえるのかもしれない。 日本に関していえば、既存のレジーム(=既得権)を脅かす社会変化(今回は大企業の日本離脱)をもたらす者は日本人でなくとも叩くということを内外に示したことになろう。その代わりに、日本に優秀な外国人経営者ばかりでなく、高度な外国人人材も来なくなるだろう。